神奈川県相模原市の障害者支援施設「津久井やまゆり園」において19名の利用者が殺害され、多くの利用者、職員が傷つけられた事件の被告の死刑が確定しました。
 あらためて犠牲となられた方のご冥福をお祈りするとともに、事件で心身を痛められた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
 本会会員施設で発生した重大犯罪が各方面にもたらした影響は計りしれず、協会としても大きな責務を感じます。この事件の本質的な問題はどこにあるのか、すべての会員施設において、今一度考えてみる必要があると考えます。
 一つは、施設での日々の支援についてです。
 私たちの仕事は、意思表出に困難を抱える利用者の想いに共感をもって寄り添い、その願いを実現していくことです。その働きは、この社会に生きるすべての人の人権擁護につながります。
 被告は日々の障害福祉の現場での支援を「無意味な時間」と捉え、重度の知的障害者の存在を否定し続けました。私たちは対人援助の専門職として今一度、自らの内面の価値観と向き合いながら、利用者の命の重さを確認しなければなりません。そして、一人ひとりの利用者と真摯に向き合うことこそが、私たちの仕事の原点であり、原動力であることを、再度、確認したいと思います。
 二つ目は社会との関係です。
 私たちの現場はソーシャルワークの原則に則った実践の場です。利用者の成長・発達は、地域社会とのかかわりや環境との相互作用の中にあります。入所、通所、相談事業所等々、事業の種別を問わず、すべての支援現場において、常に地域社会との関わりが持てるような支援を生み出していく必要があります。
 私たちの仕事は、社会の認識を変え、社会に働きかけていくという意味において、まさしく"ソーシャルワーク"であることを、深く胸に刻みたいと思います。
 このたび勇気をもって実名を公表した被害者のご家族に、心から敬意を表したいと思います。匿名を選択せざるを得なかったご家族の意向の背景には、おそらく、地域社会の中にある障害のある人への差別や偏見があります。変えていかなければならないのは、このような地域社会に他なりません。
 今一度、社会とのつながりを深めながら、障害のある人をはじめ多様性を受け入れる寛容な社会の実現に向けて歩みを進めてまいりましょう。

 日本知的障害者福祉協会の長い歴史には、障害のある人たちの幸せを願う先人たちの想いが凝縮されています。私たちにはこの歴史に深く学び、未来に向けて正しい理念や価値を継承する責務があります。私たちは、これからも障害ある人たちと共に生きる社会を実現することの意義、素晴らしさを発信し続けていきます。
 このような事件が二度と起きないよう、事件を風化させないために、私たちの仕事の原点を確認し、地域社会とのつながりを深め、社会の偏見、差別構造を変えるための活動につなげていくとともに、協会会員一丸となって、知的障害のある利用者の意思決定支援と権利擁護、社会改革に注力してまいります。

令和2年4月16日

公益財団法人 日本知的障害者福祉協会

会  長   井   上    博

(2020年04月17日掲載)